帝国の兄弟 第17話


ヴィンドボナ奪還から一週間後、帝都ペンドラゴンにゲルマニア中の貴族達が集まっていた。
新たなゲルマニアと言う国家の枠組みを作る為、彼等はオデュッセウスを皇帝と認め協力していく事を誓いあった。
あくまでも形の上では。
今まではアルブレヒトと言う共通の敵に対して団結していた彼らであるが、今度は熾烈な派閥間の権力争いが繰り広げられる事となるのだろう。
それを如何に利用し上手く落ち着けるのか、恩賞の配分などが彼等の注目を集めていた。
特にこの内乱で初期からオデュッセウスを支えた北部の貴族達の功績は大きい。
彼等の内からはアッシュフォード公爵、ヴァインベルグ侯爵、エルンスト伯爵、エ二アグラム侯爵などが主要な大臣位に付いた。
他の北の貴族達も十分な報奨を得、下級中級であった貴族の中から特に功績のあった数名は南部に所領を得た。
また、途中から参戦した東部や西部の有力な貴族達も主要なポストに付き、おおよそ彼等を満足させる結果となった。
ツェルプストー家を始めとする西部の貴族には南部の貴族から没収した領地の一部が分け与えられた。
特にツェルプストー家は南部が独占していた交易の一部を手中に収め、その功績が如何に評価されたかが良く分かる形となった。
対して南部の貴族は爵位の剥奪、領地没収、領地の変更などで二度と徒党を組んで刃向えないように撤退的に弱体化を図られた。
ゲルマニアの中心から遠ざけるわけでもなく、近すぎずといった程良い領地での飼い殺し策、その策は恩赦のようにも厳罰のようにも見え、適度な感情の緩和と言う成果を見せる。
また皇帝直属の騎士としてナイトオブラウンズが選出された。
ナイトオブラウンズは帝国を代表する騎士の称号であり、身分を超えた多くの権限が与えられる。
故にこれに選ばれるという事は騎士としての名誉でもあり、貴族としての名誉でもあった。
シャルル皇帝の御代に起きた『血の紋章事件』以来ナイトオブラウンズの制度は廃止されていたのだが、ついに復活されたのである。
ナイトオブワンには先帝の騎士ビスマルク・ヴァルトシュタイン伯爵が選ばれた。
本人はシャルル皇帝個人に使える騎士として就任を渋っていたのだが、次代の騎士達を育てる職務、彼らの目標となるべき存在としてラウンズの地位に就く事を受け入れた。
その他のラウンズには個人の功績を鑑みて数人の若い騎士達がその位につく事になった。
その中にジノ・ヴァインベルグやアーニャ・アールストレイムの姿もあった。
勿論この選出には裏があり、主要貴族の子女が選ばれやすいという反発もあったが、彼らならばその声も撥ね退けて揺るぎない実力を見せてくれるだろう。
皇族達も今まで通りに皇族の直轄地を治める事となった。
特にクロヴィスは南部のガリアからの文化が流れて来る大都市を治める事となり、文化の発展や交易の収入が政治に疎い彼を悩ませる事となる。
また今まで領地を持たなかったロロも旧オデュッセウス領の一部を与えられたが、実質的にはルルーシュが代わりに管理する為ルルーシュの影響力がさらに広がったという結果になった。
ほとんどの役職や褒賞の分配が終わって貴族達はある事に気づきざわめき出す。
この戦いで最も功績のあった人物がまだ何も役職を得ていなかった。
ルルーシュ・ヴィ・ゲルマニア、内乱を予てから予見し準備を整え戦場では軍の指揮を執り皇帝軍を勝利に導いた。
既にルルーシュは臨時の元帥位を返上しており、ヴァインベルグ侯爵がその地位に付いている。
では彼の役職はどうなるのか。

「静かに」

皇帝の首席秘書となったカノンが声を張り上げる。
一変して静まりかえり貴族達はオデュッセウス皇帝の発言を待った。

「ルルーシュ・ヴィ・ゲルマニア」
「はい」

ルルーシュの名が呼ばれ、黒の正装を纏った彼が皇帝の前に進み出て跪く。
そのある種の神秘的な光景に誰かが感嘆を漏らした。

「貴公に大公位を授ける。今後はルルーシュ・ランぺルージを名乗られよ」

ルルーシュから皇位継承権が奪われ大公の位を得る。
皇帝位の格を上げるためとは言え、周囲の貴族達は大功のあった人物に対するその非情な処遇に息を呑んだ。
しかし、

「そしてルルーシュ・ランぺルージ大公に帝国宰相の地位を与える」
「Yes, your majesty」

史上最年少の宰相がここに誕生した。





「ふむ、アルブレヒトは失敗したか」
「申し訳ありません。あの男に最小限の介入しか行いませんでしたゆえ」
「良い、我々の介入が悟られなければ問題はない」

暗い部屋で椅子に座り彼は一人チェスの駒を動かしながら、その報告を聞いていた。
男の前に立つ女性、彼女は頭からすっぽりとローブを被りその表情は窺えない。

「この失敗は後に活かすとしよう。確かアルビオンに火種があったな?」
「はい。モード大公が処刑された事により、王権に対する信頼が失われつつあります。これに介入すればアルビオンも陛下の思いのままとなりましょう。適当な人材を見繕い準備を致します」
「任せた」

陛下と呼ばれた男が青い髭を撫でつけ楽しそうに笑った。
盤上で黒のクイーンが白のキングにチェックメイトかけていた。

「ルルーシュ・ヴィ・ゲルマニアか・・・、なかなか面白い差し手だったな。もう一度やり合いたいものだ」
「ゲルマニアにも火種を放りこみますか?」
「良い、こちらは放置だ」

男が虚空を睨む。
望むものは未だ得られない。
もしかしたら未来永劫それは得られないのかもしれない。
ならばこの世の全てを破壊しつくしてやろう。
根こそぎ薙ぎ倒してその破壊の跡から望むものを見つけてやる。

「これは契約だ、シスター。俺はお前から力を得て、そして俺はお前の望みを一つだけ叶えてやる」
「はい」

女が軽く頭を垂れる。
露わになった額、使い魔のルーンの下に輝く翼を広げた鳥の様な赤い紋章。
男が目を閉じる。
そして再び開かれた時、右の瞳には女と同じ赤い紋章が刻まれていた。
宿る禁断の王の力。

「だからおれは、世界を破壊してやろう」

ゲルマニアから遠く離れた地、そこで新たな戦乱の種が芽吹こうとしていた。






To be continued






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